個展statement
この涙 は 一体誰の涙
本当は 何処の 誰の 気持ち
いつのまに 宿り棲んだ
私達の身に 宿り 流れた
あの子の涙を表せるものなんて
あの子が なきごえ をあげる気持ちなんて
代わりになれるもの なんて
到底 見つからない
代わり に なれるもの なんて
到底 見 つ か ら な い と し て も
何があってもなくても、ふとした時、
不意に泣きそうになる感覚を覚えるのは何故なのだろう。
例えばいつか見かけたダレカの傷付いた心を思ってだろうか。
はたまた、昨夜要らぬ心配を掛けぬようにと吐いた嘘を思って心苦しいのだろうか。
知らぬ間にとんでもない過ちを犯し、それを悔いているからだろうか。
いつか癒やせずにいた淋しさを思い出したからだろうか。
そして、時々こうも考える。
“果たしてこの悲しみだのは、本当に自分のものなのだろうか”と。
例えば今朝ニュースで見た、縁もゆかりもない何方かの訃報のせいかもしれない。
昼に聞いた、大事な人を喪った誰かを慮ってのことかもしれない。
夕に祈ることしかできなかった、自然の大いなる力を恐れてのことかもしれない。
夜に聴いた親しい者の悩みについて、共感したからかもしれない。
いつのまにやら心の内に棲みついた、誰かを想ってなのかもしれない。
思えば敵わないことばかり、叶わないことばかり、
私達はどうしてこうも、かなわないこと ばかりに心乱されるのだろう。
どうしようもないことにあと何度心を締め付けられれば、ようやく安らかな気持ちになって真に安心できるだろう。
時折あまりにも心が痛んで痛んで、いっそひとりにでもなってしまえたら、などと思い浮かぶこともある。
そんなことを望みながら、結局は、到底ひとりきりでなど生きてはいけない。
それは、淋しさに心折れるからだけではない。
時折もうどうにも解決しようもない問題を前に、
「いっそ消えてしまえたら」「生まれてこなければ良かった」などと、
懲りもせず途方もないことを願ったり悔いたりしてしまう。
けれども、本当に現実味をもってその脅威と立ち向かい、
思い浮かべれば、視界が滲み、胸は押し潰されそうで。
だって、誰かを喪って泣き暮れる誰かの気持ちも、
ここまで守ってきてくれた人の心持ちだって、せめてもの心残りだって、
それすら無いものだとして無視できることなど、容易にできるわけもないから。
何があってもなくても、ふとした時、不意に泣きそうになるのは。
やたら悲しい気持ちに襲われてしまうのは。
何を思い浮かべるからだろう、何を思い出すからだろう、
誰を思い浮かべるからだろう、誰を思い出すからだろう。
あと何度傷付かなければならないだろう、
あと何度傷付けてしまうことだろう。
救いはどこにある、かなうのはいつになる、
この命を終えれば報われるなんて、そんなこと
どうして盲信的に言える、思える?
赤子のように、幼子のように、腹が減ったと、眠いのだと、
気に入らないのだと、不快なのだと、
本能に駆り立てられるまま時には劈くほどの声で泣くことなど、
歳を重ねてしまった「私達」にはもう容易にできない。
それでも時々、肩を息を震わせながら、私達は泣く。
声を出さずに頬を濡らし、息を押し殺して枕を濡らす。
大粒の涙でもって、今にも千切れそうに痛む心が、せめてもの力で洗い清められたなら。
私の視界はまた、少しの心の痛みによって滲んでいく。
泣いたところで現実が救われないことなど、わかりきっていても。
私はまた、懲りもせず泣く女性を描き表す。
誰にも認められず、蔑まれてしまうかもしれなくても。
それでも私は、きっとまた「描かなくては」と思ってしまう。
彼女達を産み出すことで、何が報われてくれるのかなど、まるで検討がつかないとしても。
生身の私達の代わりに喪われて欲しい。
刺々してしまうのも、泣いてしまうのも、そんなのもう
つくりものの中だけで充分だ。充分なのに。
せめてつくりものの中でだけでもいいから、泣かせてくれ。
せめて身代わりにでも泣いていてくれ。
本物達が泣かずに済むよう、代わりになってくれ。
救われたい、救われたい。救いになって欲しい、救いになって欲しい。
いつもでなくてもいいから、時々でもいいから。
いつもでなくてもいいから、今この一瞬だけでも もういいから。
完全なる救いになれないなら、救いなんてどこにもないのかもしれないのなら、
せめて、薄暗さから距離が取れるような、
あまりにも薄くて欠けそうな心の層の、もう一枚の予備になったらいい。
マイナスよりゼロに、ゼロよりイチに、イチよりニに、ニよりサンに。
嘆きながら、それでもと繰り返す、せめてものおまじないに似ている。
独りきりで泣かないで済むように、救いになれなくてもせめて傍にはいられるように、
どこにも行き場のない気持ちなら、せめて身代わりにでもなって少しでも淀みが洗い流せますように。
私達は、今日も多くのイキモノの気配の中で、それぞれの息の仕方をじっと守りながら日々を送る。
祈るような気持ちで、鎮めるような気持ちで、
「わたし」や「あなた」にできる手段で、
せ め て も の 希 望 を 込 め て 。